2016.04.10 Sunday
このゆびとまれ通信 804号 私たちのほうろく菜種油への想い
ほうろく菜種油の値上げの告知をしてきましたが、週明けには新価格を発表できると思います。発表前に、りんねしゃとして、今回の価格変更に対しての想いを書かせていただきました。
【ほうろく菜種油を食卓に届けたい!】
これまでにない新しい油の価値表現に挑戦するつもりでほうろく屋の杉崎さんとりんねしゃで菜種油づくりを始めたのが2012年の秋ごろだった。
市販されている菜種油は安価なサラダ油がほとんどで、食用油の価値など「焦げないようにするためにフライパンに塗るもの」と「揚げるために使うもの」程度だった。自然食品店やこだわったスーパーに行けば圧搾菜種油が手に入ったが、それが菜種油の価値の限界だと思っていた人がほとんどだと思う。
そもそも食用菜種油などは味にこだわって選ぶカテゴリーの食材ではなかった。味や風味こだわって選ぶ油は、オリーブオイルの独壇場、せいぜいごま油を選ぶ程度で、菜種油に【伝統的な生産工程】を求めることはあっても【旨み】など求められていなかったと思う。
しかしながら、作り手の杉崎さんと届け手の私たちは、菜種油においしさという価値がある事を潜在的に知っていた。なぜか。先代の大嶽さんの菜種油を見てきた、食べてきたから。
僕も杉崎さんも、あの旨い菜種油を、何とかもう一度食卓に届けたい、油を選ぶ価値を見直してほしいという一心だった。私たちにとって、その想いを原点に「ほうろく菜種油」という商品が出来たといってもいい。
先代大嶽夫婦

【ほうろく菜種油の価値を伝えるために】
商品化に向けての課題はいくつもあったが、販売価格には大いに悩まされた。結果的に、杉崎さんが、想定していた価格の1.5倍から2倍近くになってしまい、「そんなの売れるのか?」と困惑された。しかし、強気に推し進めることにした。それくらいの価格でないと生産を続けること自体が困難になることは、容易に想像が出来たから。売れやすい価格をつけるのではなく、続けるために必要な価格をつける必要があった。
ちょっとややこしい話になるけれど、一般的な食費の支出傾向を調べてみた。厚生省発表の一般家庭食費支出から見ると収入の20〜23%が食費で、金額にするとおよそ5万〜7万円が一か月の支出平均。そのうち食材(外食などを除いた金額)に充てられるのが30%で18000円程度ということがわかっている。
生きる基本となる家庭での食材費平均が、外食支出より低いという現実をどう考えるのか、言いたいことはあるけれど、話がそれるのでまたの機会にするが、いずれにしても低い支出でやりくりされていると考えていい。ほうろく菜種油は一本2000円に迫るわけなので、その価格に本当に価値があると思わせる商品つくりを必死になって考えた。
これが焙煎前の菜種

実際に皆さんの手にとってもらえるようになったのは、着想から2年後の2014年だった。初めての登場は、買い手と直に接することの出来る朝市に出店し、コロッケを揚げながら油を紹介した時だったかな。うまさの秘訣は揚げ油にあることを力説したところからだったと思う。作り手の杉崎さんも一緒になって販売したのが昨日のことのようで、時間がたつのは本当にあっという間。
作り手と届け手、そして使い手がしっかりとつながること、それが達成できれば、こんなに美味しくて価値のある菜種油が、喜ばれないはずはない!そう思って取り組みを進め、今は本当にたくさんの方々の食卓に上るようになったことは、本当にうれしい限りだ。
【新しい課題は作り手と育て手を繋げること】
今は2016年の4月、ほうろく菜種油の原料である菜種の花は満開の季節。黄色いじゅうたんとさわやかな香りが、ほうろく菜種油の原料生産地でもあり工房のある西尾市にも広がっている。
たくさんのほうろくファンからはフレッシュな菜種の花の香りが油にも残っている、そんな感想をいただくことも多く、ありがたいことだと常々感じている。このような感想を頂けるのも、品質の良い菜種を生産してくれる生産者、つまり菜種の「育て手」がいてくれるからに他ならない。
昨年末から原料不足により、伝承油の欠品状態が続いている。まさに原料確保が、いまほうろく屋とりんねしゃの直面している最大の課題となっている。そしてその原料確保するために生産者との関係をどのように構築していくのか、新しいステージへの取り組みが始まろうとしている。
菜種収穫の様子

農産物には、収穫してそのまま食べ物になるものと、食べ物になるまでに多くの工程を経るものがある。菜種の場合、同じ植物から収穫して食べる菜花と、原料作物になる菜種が収穫できる。そして菜種を原料にした油の生産には、多くの加工プロセスが必要になる。日本の場合、原料作物は栽培コストの割に買い取り価格が安い。こういった原料作物は、減反の代替作物として栽培され、補助金を当てにして栽培している場合がほとんどといってもいい。
しかし、補助金制度が変わったり、補助額の高い代替作物が進められたりすると、菜種はどんどん栽培面積が減っていく。特に最近は、飼料米の補助率がよく、作業効率もいいので(お米と同じ作業、機械で汎用性が高い。飼料米は食糧米と違い食味を追求しないので、食用お米栽培より効率が良いと言える。)栽培面積が増えつつあると同時に、菜種栽培が減っている。こうして、日本中から原料作物栽培が消え、輸入に頼らざるを得なくなっていく。
【値上げに向け、ご理解とご協力のお願い】
「食べる」を追求していくと、「作る」に行き着く。杉崎さんは油だけでなく、原料も自ら「作り手」であり続けるし、りんねしゃは「育て手」や「作り手」をつなげる「届け手」であり続けたい。そのどちらも、ほうろく菜種油を食卓でおいしい料理に調理してくれる「食べ手」がいてこそのもの。そして、すべてをつなげるものが経済の仕組みでいうところの「商品価格」に積み重ねられ集約されていく。
搾油前に必ず天日で干す。

回りくどく、長々と書いてきたけれど、つまるところ、値上げのご理解をお願いすることになってしまった。今回の値上げの理由は、原料を安定的に確保するために生産者の買い取り価格を保証することが目的。それは杉崎さんが作り続けるためでもあり、私たちが届け続けるためでもあり、皆さんに食べ続けてもらうためでもある。国産菜種の確保がどんどん困難になっていく。その流れに歯止めをかけようと、杉崎さんは農業法人の立ち上げを目指し、奔走している(現在、杉崎さんたちは菜種の生産や自作の農業資材を進めるため、また農業をやりたい若者たちを受け入れる取り組みとしての株式会社イヤシロチGreensを設立するに至った。 すごい行動力であるし、だからこそ、ほうろく菜種油を作り続けられる強い意志を持つ事ができるのだと思う。
僕のほうは、近隣で委託栽培に取り組んでくれる生産者などを探している。そうやって、ほうろく菜種油を介してつながりを強くする経済の仕組みは、食品作りということにとどまらず、自然環境や人間教育、地域の伝統や文化まで育んでいくことになると信じている。今後とも、ご支援いただきますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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